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with five senses
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「独りでいることに慣れたらダメ。
 誰かに甘えることを覚えなきゃ。」

退勤時にはいつもぐったりしているわたし。
夕食を食べることさえ面倒で、
早くベッドで眠りたい。
夕方頃からは、それしか考えていないような生活。

そんなわたしに、最近やたらと絡んでくる人がいる。
法人営業部の湯丘さん。
リテール営業部のわたしとはあまり接点がないはずの人。
あえて共通点を探すとしたら、同じフロアにデスクがあることと
営業を仕事にしていること、くらいしか思いつかない。

そんな湯丘さんは、夜のオフィスでわたしを見つけると
オレンジジュースをくれるようになった。
「仕事ばっかしてると、お肌がボロボロになっちゃうよ。」
いつも貰ってばかりでは悪いからと言うわたしに
「いいのいいの。これくらい。」
と頑としてお金を受け取ってくれない。
残業をしている他の人に湯丘さんが差し入れしているのは
見たことがないけれど、それは、
湯丘さんより若い社員がわたしだけだからだろうと
深く考えないことにしていた。

その考え方に不安を感じ始めたのは、
わたしがなかなか終わらない仕事に
なんとかメドをつけて、帰宅の準備をはじめる頃を
見計らったかのように、食事や映画の誘いを受けるようになったから。

最初は、屋台のラーメンだったと思う。
「こんな時間に帰って作るのって面倒でしょ。
 一緒に晩飯食わない?」
夕食はあまり食べないなんて正直に答えてたら
これから毎晩でも誘われそうな気がしたから
何も言わずにその夜は付き合った。
箸が進まず、どんぶりの中の汁がなくなり
麺でいっぱいになる。
「ラーメン、嫌い?」
あまり好きではないのだけれど、
「何、食べる?」と聞かれたときに
「好き嫌いはないんで何でもいいですよ」と答えてしまった手前、
そうとも言えず。
力なく笑いながらわたしは言った。
「深夜にこってりとんこつは胃にもたれます」
だから、もう、誘わないで。
言外に滲ませたつもりだった。

「じゃあ、今度からは蕎麦かうどんがいいかもね。」

湯丘さんは勝手にひとりで納得してしまった。

それから、蕎麦もうどんも食べに行った。
おでんのこともあれば、居酒屋だったこともある。
いつのまにか、湯丘さんに連れまわされるのが
当たり前になっていた。

それでも夜は、一刻も早く独りになりたいと
思う日々が続いていた。
食事だけでは終わらなくなって、
レイトショーやカラオケまで付き合わされるようになっても
わたしにとっては、仕事の一部でしかなかった。

だけど、わたしの中に、湯丘さんの存在は
着実に入り込んできていたのだ。
それに気付いたのは、社長が突然打ち出した
新プロジェクトで法人営業部が忙殺されそうなほど
会議や企画書・報告書の作成に追われ始めた頃。

付きまとってくる存在から解放されて、安心した。
業務さえ終われば、真っ直ぐに帰宅できる日々を
取り戻して喜んでいた。
1ヶ月くらいは。

季節が一つ、通り過ぎようとしていた。
心が不安定なのはそのせいだと思っていた。
独りでいられない女になったなんて認めたくなかった。
これが恋だということに気付かなかった。

「独りでいることに慣れたらダメ。
 誰かに甘えることを覚えなきゃ。」

そう言っていた貴方が
わたしを独りにしてるじゃない。

泣きたいほど切なくなって
はじめてこれが恋だと知った。
もっと甘いものだと思っていたのに
なんて苦いんだろう。

「オレンジジュース、買ってきたんです。
 お肌、荒れちゃいますよ。飲んでください。」

♪ 松たか子


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