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《鯨記念日に寄せて新作です》

何日も留守にしていた部屋の空気は流れのない川の水のように淀んでいる。
室内の空気はもわっと湿気を含んでいて、静かな暗い川底のようだ。
私は息苦しくなって、酸素を求めて水面に顔を出す池の鯉のように、窓を開けて口をパクパクさせた。
都会の空気は熱いと思っていたけれど、アクアブルーの薄いカーテンを揺らす風は涼しくて、遠くから微かに運ばれてくる潮の香が心地よい。
聞こえるはずのない、何㎞も先の海岸に打ち寄せる波の音が聞こえた気がした。
窓辺から離れられなくなった私の耳に届いたのが寄せては返す真夏の記憶であることに気付いたら、つっと頬を涙がつたった。

幸せだった。楽しかった。
だから突然、怖くなった。
愛しすぎることが。
愛され過ぎることが。

貴方がいなければ、生きられなくなるような自分にはなりたくなかった。
貴方がいなくても、生きていける私を確かめたかったのかもしれない。

逃げ出したのは私。
追い掛けてくれなかったのは貴方。

それを責めることは出来ないから、私は振り返ったまま立ち尽くす。
一緒に歩いて行きたいと思っていたのに、こんなに傷付けた。
いつも貴方に抱き締められて、守られていると思っていたのに、こんなに傷付いた。

淋しいなんて言えない。
感情は溢れた涙が全て流してしまったから。
止まることを知らない時計の針は錆び付いて、キイキイなきながら回る。
動かなくなってしまえば、私は前に進めていないことに気付かなくてすんだのに。

私が傷付けた貴方は今、どこにいる?
荒れる感情の波に左右されない深い深い海の底を泳いでいるの?
貴方が愛の海にいるから知らなかった。
体の割に小さな瞳から溢れる涙に。

私を空を飛ぶ魚にしたのは貴方。
胸がいっぱいなのに、酸素が足りなくて一所懸命、息をしていた。

貴方がいなくても、生きていけるとわかったけれど、貴方がいなきゃ毎日が味気無いものなのだとわかったの。

私が貴方を傷付けたから、もうあの夏には戻れない。

戻れないのは私のせい。
進めないのは貴方のせい。

♪ The Gospellers

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