with five senses
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「おくちゃん、どうやった?」
新規先への訪問から帰ったわたしに一番に声をかけてくれたのは、
無邪気な笑顔がチャームポイントの山ちゃん。
表情や素行には幼さが残っているけれど、こういう時に、
彼は1歳上なんだなって感じる。
「熱心にこっちの話を聞いてくれるいい人だったよ。
納入までにはもう少し時間がかかりそうだけど。」
クライアントからの製品についての質問に答えるための情報を得るために
PCを立ち上げながらわたしは答えた。
「ほんまか~。」
本社のデータベースにアクセスすると、質問の答えはすぐに見つかった。
"印刷"をクリックして、オフィスの隅にあるプリンタに足を向ける。
「で、どうやった?」
後ろから大きな歩みで近づいて来て、わたしの隣に並んだ山ちゃん。
「どうって?
面会の感触はさっき話したとおりだけど」
プリンタが吐き出したペーパーの内容を確認する
わたしの手元をのぞきこむようにして山ちゃんはわたしとの距離を縮めた。
「若いって聞いたけど?」
あまりにも近くに山ちゃんの顔があって、びっくりしたわたしは思わず後じさりする。
「ほんま、おくちゃんは免疫ないな~」
仕方ないなという顔を見せて、山ちゃんは一歩下がった。
「で、角田さんってどんな人やったん?」
それまでのへらっとした笑いを消して、真面目な表情で訊ねられる。
「初恋の人に、ちょっと雰囲気が似てたかな。」
不自然な間は、わたしの返事に山ちゃんが驚いたからだろう。
「惚れた?」
表情が固まったのは一瞬で、いつものへらっとした笑顔の山ちゃん。
「それはない。」
わたしが笑うと、そか、と言って、山ちゃんは自分の仕事に戻っていった。
「惚れた?」と訊かれて、ドキッとした。
商談相手に初恋の相手をシンクロさせるなんて、許されることじゃない。
わたしのことを心配してくれているのがわかるから、
ときどき山ちゃんにはガードが低くなってしまう。
失言だったと後悔しても、もう遅い。
会議が長引いているからということで、応接室で30分待たされた。
訪問先で待たされることはこの業界では珍しいことじゃない。
アポイントなんてあってないようなものだ。
わたしは手元の資料を整理しながら角田さんを待っていた。
新規先だけど、クライアントの方から製品に興味があるから
説明に来て欲しいと言われたのだと上司からは聞いている。
だから、追い返されたりすることはないとはわかっていても、
やはり初回訪問は緊張する。
大きく息を吸い込んで肩の力を抜いたところで、応接室の重い扉が開いた。
「遅れてすみません。」
現れた角田さんのジャケットが少し乱れていた。
急いでここまで来てくれたのだろう。
「いえ。貴重なお時間をいただきまして、ありがとうございます。」
立ち上がり最敬礼をすると、角田さんは少し驚いたような顔をして、
こちらこそと折り目正しい挨拶をして下さった。
すっと伸びた背筋
真剣な眼差し
熱い語り
少し疲れの滲む横顔
初恋のあの人に似ている。
そう感じた時から、初対面の緊張からではないドキドキがあったのは事実。
一瞬だけど仕事中にもかかわらず、角田さんのことなら好きになれるかもしれない
なんて不謹慎なことを思ってしまった。
山ちゃんに「惚れた?」と訊かれるそのときまで、
もしかしたら新しい恋ができるかもしれないとぼんやり思っていた。
それなのに「それはない」という言葉はあまりにも自然に
わたしの中から出てきてしまった。
確かに角田さんは、初恋の人に似ている。
けれど、会社に帰ってくるまでの間に思い出していたのは初恋の人のことだった。
彼もあんな風に笑っていたとか、すぐに熱く語り始めるから
周りからはMr.熱血なんて言われていたとか。
いま、彼もこんな風に仕事をしているのかな … とか。
彼のことを考えるだけで、自分の中に喜怒哀楽が生まれる。
感情を自分に運んでくるのは、たった一人、彼だけだ。
いっぱい傷ついたし、いっぱい傷つけたのに、自分の中で、
まだ初恋が終わっていないことを確認してしまった。
きっと山ちゃんも気付いてしまっただろう。
まだ過去に縋りつづけるわたしに。
山ちゃんなら傍にいて、優しくしてくれる。
わかっているのに、恋愛感情に発展しない。
わたしはいつまで初恋を引きずるつもりなんだろう。
「焦らんでええと思うで。おくちゃんはまだ運命の人に出会ってないだけやって。」
初恋の人以外を好きって思えないと打ち明けた夜、
山ちゃんは切なく笑ってくれた。
いつも明るい山ちゃんにつらい表情を強いているわたしは
「ありがとう」と言うことしか出来なかった。
はぁっと息を吐き出して、仕事モードに切り替える。
「おくちゃ~ん、これ、どうしたらええん?」
声に視線を向ければ、眉間に深く皺を刻んで、PCを睨みつけている山ちゃん。
「今度はなぁに?」
「俺、ITはめちゃくちゃ弱いねん。ちょい見てくれへん?」
わたしよりPCに詳しい人は他にたくさんいるのに、
山ちゃんが呼ぶのはいつもわたし。
オフィスにいるときはもちろん、その場にわたしがいなくても
わざわざ電話をかけてくることもしばしば。
その理由は考えないようにしている。
まだ、考えられないから。
「はいはい。」
角田さんに届ける書類を自分のデスクに置いて、
隣の山ちゃんのPCを覗き込むわたし。
そんなわたしたちを周りが呆れて見ているのも知っている。
みんなは山ちゃんがわたしに甘えてると思っているみたいで、
「おくちゃんはヤマのおかん(お母さん)やな~」なんて言ってるけれど、
真実は少し違う。
わたしがずるく山ちゃんに甘えている。
ごめんね、山ちゃん。
どんなに優しくしてくれても、わたしの一番近くにいるのは、初恋の人、なんだ。
新規先への訪問から帰ったわたしに一番に声をかけてくれたのは、
無邪気な笑顔がチャームポイントの山ちゃん。
表情や素行には幼さが残っているけれど、こういう時に、
彼は1歳上なんだなって感じる。
「熱心にこっちの話を聞いてくれるいい人だったよ。
納入までにはもう少し時間がかかりそうだけど。」
クライアントからの製品についての質問に答えるための情報を得るために
PCを立ち上げながらわたしは答えた。
「ほんまか~。」
本社のデータベースにアクセスすると、質問の答えはすぐに見つかった。
"印刷"をクリックして、オフィスの隅にあるプリンタに足を向ける。
「で、どうやった?」
後ろから大きな歩みで近づいて来て、わたしの隣に並んだ山ちゃん。
「どうって?
面会の感触はさっき話したとおりだけど」
プリンタが吐き出したペーパーの内容を確認する
わたしの手元をのぞきこむようにして山ちゃんはわたしとの距離を縮めた。
「若いって聞いたけど?」
あまりにも近くに山ちゃんの顔があって、びっくりしたわたしは思わず後じさりする。
「ほんま、おくちゃんは免疫ないな~」
仕方ないなという顔を見せて、山ちゃんは一歩下がった。
「で、角田さんってどんな人やったん?」
それまでのへらっとした笑いを消して、真面目な表情で訊ねられる。
「初恋の人に、ちょっと雰囲気が似てたかな。」
不自然な間は、わたしの返事に山ちゃんが驚いたからだろう。
「惚れた?」
表情が固まったのは一瞬で、いつものへらっとした笑顔の山ちゃん。
「それはない。」
わたしが笑うと、そか、と言って、山ちゃんは自分の仕事に戻っていった。
「惚れた?」と訊かれて、ドキッとした。
商談相手に初恋の相手をシンクロさせるなんて、許されることじゃない。
わたしのことを心配してくれているのがわかるから、
ときどき山ちゃんにはガードが低くなってしまう。
失言だったと後悔しても、もう遅い。
会議が長引いているからということで、応接室で30分待たされた。
訪問先で待たされることはこの業界では珍しいことじゃない。
アポイントなんてあってないようなものだ。
わたしは手元の資料を整理しながら角田さんを待っていた。
新規先だけど、クライアントの方から製品に興味があるから
説明に来て欲しいと言われたのだと上司からは聞いている。
だから、追い返されたりすることはないとはわかっていても、
やはり初回訪問は緊張する。
大きく息を吸い込んで肩の力を抜いたところで、応接室の重い扉が開いた。
「遅れてすみません。」
現れた角田さんのジャケットが少し乱れていた。
急いでここまで来てくれたのだろう。
「いえ。貴重なお時間をいただきまして、ありがとうございます。」
立ち上がり最敬礼をすると、角田さんは少し驚いたような顔をして、
こちらこそと折り目正しい挨拶をして下さった。
すっと伸びた背筋
真剣な眼差し
熱い語り
少し疲れの滲む横顔
初恋のあの人に似ている。
そう感じた時から、初対面の緊張からではないドキドキがあったのは事実。
一瞬だけど仕事中にもかかわらず、角田さんのことなら好きになれるかもしれない
なんて不謹慎なことを思ってしまった。
山ちゃんに「惚れた?」と訊かれるそのときまで、
もしかしたら新しい恋ができるかもしれないとぼんやり思っていた。
それなのに「それはない」という言葉はあまりにも自然に
わたしの中から出てきてしまった。
確かに角田さんは、初恋の人に似ている。
けれど、会社に帰ってくるまでの間に思い出していたのは初恋の人のことだった。
彼もあんな風に笑っていたとか、すぐに熱く語り始めるから
周りからはMr.熱血なんて言われていたとか。
いま、彼もこんな風に仕事をしているのかな … とか。
彼のことを考えるだけで、自分の中に喜怒哀楽が生まれる。
感情を自分に運んでくるのは、たった一人、彼だけだ。
いっぱい傷ついたし、いっぱい傷つけたのに、自分の中で、
まだ初恋が終わっていないことを確認してしまった。
きっと山ちゃんも気付いてしまっただろう。
まだ過去に縋りつづけるわたしに。
山ちゃんなら傍にいて、優しくしてくれる。
わかっているのに、恋愛感情に発展しない。
わたしはいつまで初恋を引きずるつもりなんだろう。
「焦らんでええと思うで。おくちゃんはまだ運命の人に出会ってないだけやって。」
初恋の人以外を好きって思えないと打ち明けた夜、
山ちゃんは切なく笑ってくれた。
いつも明るい山ちゃんにつらい表情を強いているわたしは
「ありがとう」と言うことしか出来なかった。
はぁっと息を吐き出して、仕事モードに切り替える。
「おくちゃ~ん、これ、どうしたらええん?」
声に視線を向ければ、眉間に深く皺を刻んで、PCを睨みつけている山ちゃん。
「今度はなぁに?」
「俺、ITはめちゃくちゃ弱いねん。ちょい見てくれへん?」
わたしよりPCに詳しい人は他にたくさんいるのに、
山ちゃんが呼ぶのはいつもわたし。
オフィスにいるときはもちろん、その場にわたしがいなくても
わざわざ電話をかけてくることもしばしば。
その理由は考えないようにしている。
まだ、考えられないから。
「はいはい。」
角田さんに届ける書類を自分のデスクに置いて、
隣の山ちゃんのPCを覗き込むわたし。
そんなわたしたちを周りが呆れて見ているのも知っている。
みんなは山ちゃんがわたしに甘えてると思っているみたいで、
「おくちゃんはヤマのおかん(お母さん)やな~」なんて言ってるけれど、
真実は少し違う。
わたしがずるく山ちゃんに甘えている。
ごめんね、山ちゃん。
どんなに優しくしてくれても、わたしの一番近くにいるのは、初恋の人、なんだ。
♪ Joe
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