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《続・No One Else Comes Close》

「おくちゃん、元気?」

金曜の夜。
部屋にまっすぐ帰ろうとする人間は少ない。
1階ロビーは今夜や週末の予定の話に花を咲かせる人たちで溢れている。
こんなときに俯いて歩いてるわたしに声をかける人物なんて一人しかいない。

「うん、だいじょーぶ。今週は忙しかったからちょっと疲れてるけど。」
少し無理して笑うとやまちゃんは、そやなーと言いながら肩をぐるりと回した。
「ほな、来週」
「お疲れさま~」
結び目に指をかけて、ネクタイを緩めているやまちゃんに手を振った。
ほんの少し、淋しいと思ってしまったのは、ここにいない彼を求めてしまったから。

「奥沢さん、元気?」
彼もよく訊いてくれた。
「はい、大丈夫です。」
「本当に?危なっかしくって放っておけない。」
そんなことを言われたのは初めてだった。
その瞬間、彼はわたしの特別になった。

家族のことを悪く言わないわたしに、
彼は「愛されてないって思ってるんだね」って言った。
他の人はみんな、「本当に家族が好きなんだね」って言うのに。
「そんなに苦しいなら、家族と離れて暮らせばいいのに。」
びっくりして溢れた涙が止まるまで、彼はそばにいてくれた。

そして、あの日のまま、わたしの時間は止まっている。
彼に出会うまでは、独りが淋しいなんて思ったことはなかった。
独りでも生きていけると信じていた。
だけど、彼に出会ってしまったから、独りで生きていく自信がなくなった。
愛されたいと願っている自分に気付いてしまったから。

ふっ、と自嘲してわたしは社屋を出た。

忙しい彼は、優しくしてくれた過去があることさえも忘れていることだろう。
これからも、わたしのことを思い出すことなんて、一度もないかもしれない。
教えてくれるのは仕事のやり方と人を愛する気持ちだけでよかったのに。
人に愛されたいと思う気持ちなんて知りたくなかった。
そうすれば、こんな惨めな気分にはならなかったのに。

だけど、彼に会わなければよかったなんて思えない。
彼に出会えたから、いまわたしはここにいる。
だから、明日を生きていける。そう思うから。

もう一度、彼にめぐりあえたら、ちゃんと伝えよう。
―わたしがこんな愛する人は、いままでもこれからも、貴方だけです―

♪ The Gospellers

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